浮世絵で旅気分 ~ 2022年1月30日 (日)
江戸時代中期、全国の地誌への関心が高まると、旅行文芸書や、各地のガイドブックとしての名所図会が刊行されるようになり、さらにカラフルな1枚刷りの風景版画となって盛んに作られるようになりました。14歳で亡くなった尾張徳川家13代慶臧(よしつぐ/1836~49)の墓所の副葬品にも数多くの風景版画が含まれていたほどです。
風景版画の立役者であった歌川広重(1797~1858)は、保永堂から出版した「東海道五拾三次之内」が人気を博し、風景画の第一人者に躍り出ました。写実を基本とする名所図会とは異なり、天候や時間帯をさまざまに設定し、登場人物にも工夫を凝らすなど独自の脚色をちりばめた作品群は、ひときわ旅の気分が溢れているように感じられます。
本展では、旅の雰囲気を生み出すための広重の工夫に注目し、当時の人々が作品から感じたであろう旅の気分を追体験してみようと思います。
東海道五拾三次之内
日本橋 朝之景(保永堂版)
歌川広重画
東海道の出発点。まだ明けやらぬ空の下、大名行列の旅の一行の姿が見えてきます。午前4時頃に開かれた木戸を通って、西に向かいます。手前には、魚河岸(うおがし)で仕入れを終えた魚屋たちの姿が見えます。新しい一日の始まり、緊張感ただよう非日常の旅の始まり、そして魚屋たちの普段通りの日常の始まりと、三つの「始まり」の取り合わせとコントラストは絶妙です。
東海道五拾三次之内
御油 旅人留女(保永堂版)
歌川広重画
手をつかまえ、あるいは首を引っ張り客を引く女たち。右端の宿屋には客が今到着したところです。客人の背後には、絵師・彫師・摺師さらに版元の名までが記されています。
東海道五拾三次之内
池鯉鮒 首夏馬市(保永堂版)
歌川広重画
保永堂版「東海道五拾三次之内」は、広重の代表作で、風景版画の頂点に立つ作品のひとつ。北斎の富嶽三十六景の成功にならい、版元保永堂竹内孫八が広重を登用して出版しました。53の宿場に、始点(日本橋)と終点(京都)を加えた全部で全55枚のセットです。この図は、かつて知立(ちりゅう)で首夏(旧暦4月)に10日ほど開かれていた馬市をすがすがしく描く名作です。保永堂版東海道の他のいくつかの図と同様に、『東海道名所図会』から着想を得たようですが、歌川広重という個性のフィルターを通すと、全く別の世界が広がります。
2022年1月4日 (火) ~ 2022年1月30日 (日)
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
月曜日。ただし、1/10(月)は開館、1/11(火)は休館