(作品解説より 太田記念美術館副館長 永田生慈)
掛軸の縦に細長い画面であるためか、極端に切り立った象徴的な富嶽図である。おそらく雪のないところから夏の景であろうが、濃墨による点苔が季節感を十分に伝え、また背景が何ら描き加えられていないことが、一段と雄大さを増している。おそらく落款印章からみて、文化(1804〜18)初年頃の四十代半ばにおける制作と考えられるが、大胆な描法を示すものとしては該期随一であろう。
定価 130,000円(税込)
上下表装布=洛北緞子
中廻し=貴船緞子
一文字布=新金欄
風帯=新金襴
本紙=鳥の子(和紙)
軸先=紫檀
印刷=多色オフセット印刷八色刷
収納箱=桐箱上製外箱付
掛軸寸法=天地180.0糎 左右34.0糎
本紙寸法=天地95.0糎 左右29.0糎
所蔵=日本浮世絵博物館
監修・解説=永田生慈
(太田記念美術館副館長)
初公開
日本浮世絵博物館秘蔵の北斎肉筆画
第四弾
「富嶽図」の落款「画狂人北斎」は、北斎四十代半ばと考えられている。
しかし、この「富嶽図」は、葛飾北斎の名を世界に知らしめた不朽の名作「富嶽三十六景」(大判46枚)に先だつこと三十余年であることを思えば、この墨一色で描かれた「富嶽図」にその天禀の一端を垣間見ることのできる作品であり、堂々たる夏山の富士の偉容である。
なお、同じ日本浮世絵博物館にもう一点「富嶽図」(絹本着色 北斎肉筆復刻シリーズの第一弾として製作)はあるが、この作品は北斎が「宗理」号を廃した直後の四十代前半の制作とみられている。こうしてみると一点の名作が生み出される時代背景と、画家たちの動向に興越つきないものを覚えるのである。
落款「画狂人北斎画」 印章「龜毛蛇足」