(作品解説より 学習院大学教授 小林 忠)
今回の複製の原画となった。「花下鴛鴦圖」は洋画家として知られる江漢が東洋画にもよく通暁していたことを伝える、貴重な作例である。
雪をかむた山茶花の下、寒菊のかたわらに、雌雄つがいの鴛鴦がいる。
木の枝にとまる雀と、雌の鴛鴦とが視線をつなげて、枝ぶりや地面への筆致のゆるやかな線とともに、画中に生動の勢いを与えている。側筆を用いた付立の手法による墨や淡彩はつややかでうるおいに富み、都会的で洗練された趣を備えている。身近に飾ってつねに心なごませられる優雅な佳品である。
著名は「江漢司馬峻寫」その下に「司馬」の朱文方印と「峻」白文方印の印章二顆が捺されている。
定価 130,000円(税込)
上下表装布=錦支那は
中廻し=貴船緞子
一文字布=新金欄
風帯=新金襴
本紙=特上絵絹
軸先=漆塗り唐木
印刷=多色オフセット印刷九色刷
収納箱=桐箱上製外箱付
掛軸寸法=天地181.0糎 左右45.5糎
本紙寸法=天地98.7糎 左右33.0糎
監修・解説=小林 忠(学習院大学教授)
初公開
日本浮世絵博物館秘蔵の江漢肉筆画
司馬江漢は、鎖国という江戸時代にあって江戸から世界を見通せた数少ない日本人の一人であるといえる。
絵は、初めは狩野派に学び、浮世絵では春信風美人画を描いたが、それに飽き足らず沈南蘋派の宗紫石に入門。そこで平賀源内を知り、秋田蘭画の小田野直武・佐竹曙山に近づき西洋画の研究と、蘭学者の前野良沢・大槻現沢等との接触により蘭書からヒントを得て、遂に我が国初の銅版画の制作に成功するにである。名所絵も銅版画の技法で西洋画の遠近法が見られる。主な作品に「三囲之景図」「両国橋図」「不忍池図」「御茶水図」など。又、?画と呼ばれた油絵も書いている。なお、北斎にも和蘭陀絵と称して木版画で江漢の銅版画の技法を意識したシリーズが遺されてる。
江漢は、学者としても長崎へも出かけて地動説を唱えるなど西洋理学への関心も深く、著作に『地球全図略説』『和蘭天説』等がある。思想家としても当時の封建的身分制度を批判する程の慧眼の持ち主だったのである。
この度の「花下鴛鴦圖」は、江漢の花鳥図では他に例を見ない貴重なコレクションである。鋭い観察と技倆によって静寂の中にも気韻に満ちた優品となっている。