浮世絵、葛飾北斎「富士図」掛軸

不朽の名作「富嶽三十六景」に
先だつ、壮年期北斎の傑作を復元!

(作品解説より 太田記念美術館 永田生慈

(関防印)
遠く暁にこころ深く
ちかき風に耳を洗ふと
たときをしえも夏にありて
寿々しさや山うこかして松に風
七十老 文来庵 印印

 とあり、本図が初夏の涼しげな富嶽を題材としていることが知られよう。画面は向かって右に松の老木を大胆に描いている。その幹の描法は毛足の強い筆を用いて一気に描き、未だ墨のかわかぬうちに濃墨あるいは淡墨を見事に使い分けて、平面化をふせいでいるのである。また僅かに墨の中へ朱を入れているので、一段と質感を表出するのに成功している。その枝や葉の部分も、極めて速いスピードで描きあげていることが窺われ、練達した技量を知るのには十分である。富岳についても、北斎らしい工夫の様子が窺われる。例えば、全体は全くの無線により雪の雰囲気が上手に捉えられており、中腹には空色の絵の具が施されていて、さわやかなアクセントとなっている。
 ともあれ、松の漢画的手法や独自な富嶽の描法などと相俟って、壮年時における北斎の研鑽のあとを窺うことのできる点、重要な一図といえ、また初期肉筆分野の優品といっても過言ではない。

富士図 浮世絵拡大図

定価 120,000円(税込)

富士図 葛飾北斎筆(肉筆画)

富士図 葛飾北斎筆(肉筆画)

浮世絵掛軸・収納箱入り

豪華複製・特装掛軸■体裁

上下表装布=錦支那■
中廻し=離宮裂
一文字布=新金欄
風帯=新金襴
本紙=特上絵絹
軸=新唐木
印刷=多色オフセット印刷九色刷
収納箱=桐箱(長さ52.1糎 幅7.8糎 高さ7.5糎)
掛軸寸法=天地166.5糎 左右48.0糎
本紙寸法=天地94.8糎 左右31.2糎
所蔵=日本浮世絵博物館
監修・解説=永田生慈
 (太田記念美術館副館長/葛飾北斎美術館館長)

初公開
日本浮世絵博物館秘蔵の北斎肉筆画
 北斎(宝暦十年1760〜嘉永二年1849)が文政から天保初年(1818〜30)にかけて制作した錦絵は、「富嶽三十六景」(全46枚)をはじめ、「千絵の海」(全10枚)、「諸国瀧廻り」(全8枚)、「諸国名橋奇覧」(全11枚)などの著名な風景版画があり、さらに花鳥画・動物画においても多くの佳作が集中的に版行された。
 さかのぼって文化元年(1804)頃には、当時流行した狂歌絵本や曲亭馬琴・柳亭種彦などの著名な読本に挿絵を描いて巷間の人気を独占した。また文化十一年(1814)には『北斎漫画』(全15冊約3900余図)が刊行され世界にも例をみない森羅万象を描いた絵の百科図典ともいうべき膨大な画集となった。
 後年天保五年(1834)、富嶽図の総決算ともいうべき『富嶽百景』(二編二冊)を発表している。その後は、ほとんど肉筆画の制作に傾倒し数々の傑作を残して九十歳で没した。
 中でも「富嶽三十六景」は、風景版画の不朽の名作として海外にもその名を轟かした。この度の「富嶽図」は、北斎壮年期肉筆画の数少ない重要な作品で酒井コレクションの日本浮世絵博物館に秘蔵されていたものである。酒井家は、江戸時代松本の豪商として知られ、文人墨客としても広重描く『百人一首鍾声抄』に入っており、北斎や広重、歌川派の浮世絵師が盛んに松本に出入りしていた。
 北斎の「富士図」が酒井館長格別のご好意により、限定版としてここに初めて公開復元されることは愛好家・研究家はもとより、北斎と縁(ゆかり)の深い酒井家にとっても誠に意義深いところである。

日本浮世絵博物館の認定印この度の複製にあたり、財団法人 日本浮世絵博物館の認定を頂き、改めてここに認定印を捺印し、その出来栄えを保証するものである。