(作品解説より 太田記念美術館副館長/葛飾北斎美術館館長 永田生慈)
浅草庵市人
孝行の心を 天も水にせす 酒と くまする 養老の 瀧
浅草庵市人の賛に読めるように、本図は世阿弥の作といわれる、能の「養老」を題材とした一図である。
内容は、樵夫の孝行の徳により、美濃国養老の瀧に霊泉が湧いたという由来を脚色したもので、めでたい話であることから好題材として古くより数多の絵師によって描かれている。
北斎は、賛の入るべき位置を計算しながら、瀧の雄大さを一段と強調するために画面を本紙の中央より下に集中させ、上部はラフに、下は丹念な描写を行っている。特に人物の姿態や流水に施されている隈は見事で、地味な配色と相俟って、きわめて立体的である。
定価 130,000円(税込)
上下表装布=錦支那■
中廻し=離宮裂
一文字布=新金欄
風帯=新金襴
本紙=特上絵絹
軸=新唐木
印刷=多色オフセット印刷九色刷
収納箱=桐箱(長さ52.1糎 幅7.8糎 高さ7.5糎)
掛軸寸法=天地166.5糎 左右48.0糎
本紙寸法=天地94.8糎 左右31.2糎
所蔵=日本浮世絵博物館
監修・解説=永田生慈
太田記念美術館副館長
葛飾北斎美術館館長
初公開
日本浮世絵博物館秘蔵の北斎肉筆画
第二弾
北斎は、一般には「富嶽三十六景」(全46枚)があまりにも知られており、世界的にもユネスコが選ぶ日本を代表する画家として雪舟と並んで入っている程である。
しかし、九十歳で没する迄の70年に及ぶ画業は北斎の精進と努力の賜物であり、他の画家には見ることのできない領域の広さを誇っている。浮世絵版画だけでも、役者絵に始まり、美人画、富士山を中心とした風景画、広重に先駆する数種類の東海道五十三次、更に諸国の名所絵、古典等にテーマを求めた物語絵、当時の流行作家との合作になる挿絵本。そして肉筆画。この肉筆画の分野においても北斎は一浮世絵師の枠に収まる画家ではなく、従来の流派に捉われることなく、漢画、狩野派、琳派そして西洋画とあらゆる技法を駆使した肉筆画を数多く遺している。長命だったこともあるが、彼自身の切磋琢磨によるものであることはその作品が何よりも物語っている。
この度の「養老の瀧孝子図」は、こらいよりしょうふくのがだいとしてさんけんされ、ほくさいにもたにもういってんみられるが、まつもとのひほんうきよえはくぶつかんが酒井コレクションとして二百数十年に亘って蒐集してきた秘蔵の名品中の一幅で、ここに初めて完全復刻紹介するものである。